佃の高層マンションの裏に昔ながらの萬屋があった。
向かって右側に煙草の売り場があり、正面の重い木枠のガラス戸は開いていて、薄暗い中がぼんやり表から見えた。
私の実家にも、昔叔父さんが下駄やをやっていったので、小さな出窓みたいなものがあり、子供の頃その狭い空間にもぐり込んで遊んだことを思い出して、店の中を覗きこんだ。

こんにちはと声をかけた。
店のなかから、おじさんの声でいらっしゃいと声がした。 中に入ると、店の中は薄暗らく、上がりカマチの奧におじさんが座っていた。
目が暗さに馴れると、家は昔の下町の商家の造りで、天井はなく、２階の床下まで、１階の天井になっている建物で、天井まで、それこそ色々な物が今にも崩れそうだが、絶妙なバランスをもって積み上げられていた。
おじさんは「もう、百年たってもこの家には陽が当たらないね」と淡々と話した。
数年後、店はトタンでふさがれていた。

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