随想「東京下町物語」
- 町の匂い - -


今の下町で見られなくなった物はいくつもあるが、
特に物売りの人たちの姿は全く見られない。
餅米を丸い平らなお皿のような鉄板にのせ圧縮して作るポンせんべい屋。
お米を球形の容器の中に入れまわしながら火であぶり、
ヤットコのような金具で一気に蓋をはずして長方形の網籠の中に吹き出させる「ばくだん屋」。
ピートいう音を鳴らしてキセルのヤニを蒸気で掃除をする「らお屋」。
明け方のふとんの中で聞こえる
「あっさりしんじめー」とかけ声をかけて自転車で走り去る「アサリ売り」。
その他夏には風鈴の音をならしながらくる「金魚売り」。
物干竿を売る「さおだけ屋」。
包丁を研ぐ「研屋」。
富山から置薬を運んでくる「越中富山の薬売り」。
水飴などを売って絵物語を語る「紙芝居屋」。
カタカタたんすの引き出しの取っ手をならして歩く「とうがらし売り」。
路上で靴を直す「靴修理屋」 など。
もちろんぽったん便所だったので肥を汲みにくる「おわんやさん」も町を行き交っていた。
通りのまん中には、
銭湯に薪を運んでくる馬車の馬ふんが転々と落ちていて、
今思えばかなり凄い景色だが、
そのころは当たり前の情景だった。
子供はみんな鼻の下に青っ鼻を2本垂らしていて、
その鼻汁を時々洋服の袖で拭くので、
子供の袖はみんなテカテカに光っていた。

1964年靴修理1964年靴修理